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Osaka Red Data Book 2000.3
淡水魚類
現在の大阪府の淡水域は、地形上、次の2大水系と1水系群に分けられる。
1.北河内・北摂・摂津地方の琵琶湖・淀川水系(猪名川水系を含む)
2.中・南河内地方の大和川水系
3.泉南地方の小水系群
前2者は他府県に水源をもち、大阪府内の水域はいずれも下流域の様相を呈する本流とその支流河
川(水源は他府県の場合もある)および溜池などからなる。この2大水系の本流は、新大和川の掘削
(1704年)以前は大阪市内で合流していた。
泉南地方の水系群は、葛城山系の山中に源を発し、大阪湾に流入する比較的流程の短い複数の水系
からなる。その水系のほぼ全域が大阪府に含まれる点が、前2水系とは大きく異なる。
大阪府には、我が国でも生物地理的に豊富な魚類相を誇る琵琶湖・淀川水系が南流し、しかも淀川
にはワンドとよばれる静水域が現存するため、従来からコイ科をはじめとする豊富な淡水魚類相が記
録されてきた。
今回の約90編の資料調査によって、大阪府の淡水魚(純淡水魚、回遊魚、汽水魚)に関する1930
〜1999年の記録が整理された。その過程で、他の分類群にも共通すると思われるが、次の考慮すべ
き事項が浮上した。
1)データ不足:採集・確認した場所が大阪府かどうか明らかでない。
2)種の同定の信頼性:次の理由から記録された種名が信頼性に欠ける。
(1)生物地理学上およびその後の調査からみて同定の誤りが確定的。
(2)同定時に近縁の種・亜種との誤認の可能性があり、資料にある記載事項と標本の再検討や現地調
査が必要。
3)分類学的新知見による修正:最近の分類学の発達によって、淡水魚においては新知見が急増して
いる。そのため、従来の種・亜種名の変更が必要な場合が相当例存在する。したがって、資料にある
記載事項と標本の再検討や現地調査が必要。
4)情報量の偏り:記録の量や信頼性に水域による疎密があり、さらなる資料収集と現地調査による
確認が必要。特に、諸水系の河口域と泉南地方の水系群の記録は少ない。
今回の資料調査によって、これまでに資料に掲載された上記3水系(群)の淡水魚を、上記1)お
よび2)(1)に当る魚類(カマキリ、オヤニラミ、イワトコナマズおよびタナゴ、ハリヨ)を除外して
抽出したところ、16目39科116種(亜種を含む)であることが判明した。
さらに、今回、上記2)(2)〜4)で述べた新知見による資料の再検討と私信による情報、現地調査
の結果をあわせて修正したところ、4目6科11種を新規に、6種を新称で掲載することになった。こ
のうち、ミナミトミヨ(絶滅種)は、大阪府での記録は無いが、信頼すべき情報(私信)から、かつ
て府内に生息していたことがほぼ確実であるとして、その旨の注釈付きで掲載した。また、新称で掲
載したコウライニゴイ、ナガレホトケドジョウ、アカオビシマハゼなどは、従来は1種とされていた
ものが複数種を含むことが判明したために、ごく最近になって種・亜種名が訂正されたもの(ナガレ
ホトケドジョウは未記載種)である。
現地調査は平成8年度から平成9年度に、淀川水系および泉南地方小水系群の合計21ヶ所で行っ
た。その結果9目17科51種の魚類が確認され、そのうち11種はこれまでの資料や私信では確実
な記録や情報が得られていないものであった。ただし、現地調査は魚類の情報量が少ない汽水域を
重点においたため、上記11種のうち、いくつかについては府内の海域では記録されている可能性
が高い。以上の記録をまとめて、最終的に17目42科130種(亜種を含む)が大阪府の淡水魚の掲
載種とされた。
今後、本掲載種は、分類学的新知見に基づいたさらなる情報の収集と標本の再検討によって改定さ
れるべきものである。特に、上記1)によって削除した種類や2)(2)〜3)に該当するニゴイ、オオ
キンブナ、ホトケドジョウ、シモフリシマハゼ、スミウキゴリ、マゴチ、回遊型カジカの追加、ある
いはビワヒガイ、スゴモロコの削除の可否は問題になるであろう。
今回の調査結果を概観すると、大阪府内の淀川(本川およびワンド)で今回の掲載種の約75%にあ
たる98種(亜種を含む)が記録されており、大阪府の淡水魚相をみるとき、淀川の存在は大きい。そ
れに淀川・猪名川・大和川水系の各支川のスナヤツメ、タカハヤ、カワムツB型、ズナガニゴイ、ア
ジメドジョウ、アカザ、オオヨシノボリ、さらに泉南地方の小水系でのみ確認されたクロヨシノボリ、
ボウズハゼ、トビハゼなどが加わる。カワアナゴは大和川下流域でのみ記録されている。
最近の現地調査でも、淀川水系の淡水魚相の豊富さが我が国有数であることは明らかである。平成
6〜8年度「河川水辺の国勢調査年鑑」によると、1・2級水系・河川における淡水魚の種類数は、
那賀川101種、利根川93種、四国吉野川93種、斐伊川84種、円山川78種、木曽川75種、阿賀野
川73種、夷隅川72種、旭川69種、淀川(淀川、宇治川、木津川、桂川の本川・支川)68種と我が
国で第10位である。しかし、海魚を除くと木曽川に次ぐ2位の位置を占めるとの報告もある。さら
に純淡水魚のみでみると、淀川水系にはほぼ50種とされていて、それが40種を超える阿賀野川、利
根川、木曽川、吉井川、旭川の各水系をうわまわって、なんと我が国で第1位である。
今回の調査は大阪府内の淀川水系に限られたものでありながら、その掲載種の豊富さには驚く。淀
川の存在の大きさは繰り返し強調してきた。その中でもいわゆるワンドの存在は、そこに確認の記録
が残されている淡水魚53種、うち純淡水魚が47種を数えるとき、大阪府民の財産として誇るべきも
のがある。なお、淀川の淡水魚類相をより魚類相が豊富な他府県の水系のそれと比較すると、淀川に
回遊魚および汽水・海魚が少ないことに気づく。これは、河口が外洋に面していないことや自然海岸
がほとんどなく、河口域に干潟が少ないこと、水の汚濁などさまざまな要因が考えられる。
さて、以上の掲載種について、各魚種の生息状況に関する資料あるいは魚類研究者などの情報によ
り、保護上重要な淡水魚類として8目13科55種を選定した。そのうち13種を絶滅危惧I類とした
ので、それらについて少し詳しく述べておこう。その選定の根拠は大きく2つに分れる。1つは最近
の確実な情報が途絶えているもので、スナヤツメ、ゴクラクハゼ、ビリンゴ、トビハゼが該当する。
これらの魚種はもともと生息数が少なかったもので、すでに大阪府から絶滅している可能性もあるが、
残存している可能性もすてきれないと判断した。いづれにしても、今後精査を行って、生息が確認さ
れれば緊急かつ強力な保護対策が必要となるであろう。
もう1つは、現存するが、府内での生息域が比較的狭いうえに個体数も少なく、種々の理由から今
後個体数の減少が確実と思われるものである。イタセンパラとアユモドキは、生物地理学的にも貴重
であるとして天然記念物に指定されていると同時に、環境庁、水産庁ともに我が国における絶滅の危
惧が最も高い種のなかに位置づけている。イタセンパラは、さらに環境庁のいわゆる「種の保存法」
における指定種にもランク付けされている。その意味でも、両種の大阪府における保護の必要性は大
きい。淀川のイタセンパラは、1962年の確認以後生息の情報が途絶えて「幻の魚」とされていたが、
1969年11月に再発見された。それを契機に、本種の保護ともっぱらの生息場所であるワンドの保全
を訴える気運が一気に高まった。その後イタセンパラは毎年確認されているが、近年における分布範
囲と個体数の減少は著しい。淀川は両岸に都市が広がり、古くから治水と水運のためのさまざまな事
業が繰り返された。ワンドもその名残であるが、河川改修と河川公園創設のために急激に減少した。
本種が好む河川環境の回復をめざすべく、多分野の研究者等による研究会が最近発足し、環境庁、建
設省、水産庁、文化庁関連の行政組織等との間に相互理解の場がうまれたことは喜ばしい。水流によ
る自然掘削によって河川敷内に形成される止水域(タマリ)の存在と季節に対応した河川の水位・水
量の変化が、イタセンパラの繁殖にとって重要であるとする研究会の結論は、本種の保護を考える際
に極めて重要である。
アユモドキは府内では淀川のワンドでのみ確認されてきた。本種は昼間岩下などに隠れているため
に採集されにくく、以前から多数個体が捕獲されることはなかった。近年における発見回数は明らか
に減少しており、1989年以来記録が途絶えていた。しかし紀平私信によると1997年に楠葉地先の本
流で確認され、絶滅は逃れているものと思われる。
ニッポンバラタナゴとイチモンジタナゴは、かつては府内あるいは淀川に広く分布していたが、近
年その分布域と個体数が激減した。前者は、環境庁、水産庁ともに我が国で絶滅の危惧が最も高い種
のひとつに位置づけていて、その理由に外来亜種タイリクバラタナゴとの交雑による遺伝的純系個体
群の激減をあげている。大阪府にはニッポンバラタナゴが本州西部で唯一まとまって存在するとして
重要視されているが、府内においても事情は同じで、1970年代後半にはすでに亜種間交雑が確認さ
れていた。さらに府内においては主な生息場所が溜池であることから、水質汚濁や改修、さらにブ
ラックバス、ブルーギルによる直接的な捕食と二枚貝の幼生が主に寄生するトウヨシノボリを捕食す
ることによって間接的に生じるドブガイの減少・絶滅が、ニッポンバラタナゴの減少に拍車をかけた
ものと思われている。
淀川のスジシマドジョウ小型種淀川型は、1970年代初頭には府内のワンドに多数生息していたが、
1980年代初頭には激減して、1984〜1985年の大阪府淡水魚試験場の精力的な調査にも関わらず採
取されなかった。近年の河川は、ワンドの激減に加えて、上流域のダム群による洪水調節と本川の拡
幅および河床掘削によって水位の低下および安定化が著しい。さらに、河口から約10km上流に1983
年に竣工した淀川大堰によってせき止められたバックウォーターは枚方市付近まで及ぶために、その
範囲の本流・ワンドの底は特に泥質化した。このことが砂質を好む本種を激減に追い込んだ重要な要
因のひとつとみられている。カワムツA型の減少もこのような淀川の環境の変化に起因するものと思
われる。
絶滅危惧I類に選定した最後の3種はアジメドジョウ、ナガレホトケドジョウ、陸封型カジカで、
淀川または猪名川の支流の上流域に生息する魚種である。アジメドジョウは最近も北摂の1河川で少
数個体が確認されている。本種は冬季に伏流水が流れる砂中に集団で潜入して産卵するという説もあ
るが、不明な部分が多い。環境庁は1999年2月に、大阪府のアジメドジョウが本種の西限にあたる
ため、絶滅のおそれのある地域個体群に選定して特別の注意を払っており、大阪府としていっそうの
配慮が必要であろう。大阪府におけるナガレホトケドジョウは、今回の現地調査で源流部の極めて狭
い範囲に初めて確認されたもので、絶滅に至らないよう、今後十分の留意が肝要である。
環境庁では、平成11年2月に汽水・淡水魚類のレッドリストを発表して96種(地域個体群を合わ
せると110種)の魚類を掲載した。これらを分類群別にみると、河川では回遊性の種が主体となるハ
ゼ科魚類が全体の約40%を占めて最も多く、次いで純淡水性の種が主体となるコイ科魚類(約19%)
が多くなっている。このリストにハゼ科魚類が多く含まれるのは南西諸島産の種が多く含まれている
ためで、近年この地域における魚類の生息状況が明らかになりつつあることに起因している。
これに対して、大阪府における保護上重要な淡水魚類はコイ科が全体の約44%を占めて最も多く、
次いでハゼ科(約24%)が多くなっている。また、生活形別にみると生活史の全てを淡水域のみで完
結させる純淡水魚が40種、汽水域のみで完結させる汽水魚が1種、淡水域と汽水域あるいは海の間
を移動する回遊魚が14種となっている。このリストにコイ科をはじめとする純淡水魚が多いのは、淀
川淡水域における魚種の豊かさによるもので、同時にこれらの多くが絶滅の危険にさらされているこ
とを示唆している。
(長田芳和)