‐はじめに‐ 夕涼みしてますか?
『夕涼み』
‐ 夏の夕方、屋外または縁側などへ出て涼むこと。
日本の夏は、2〜4ヶ月にわたり、蒸し暑い気候が続きます。本当にうだるような暑さですが、偉大な先人たちはその暑さを受け入れながら、様々な風習・道具などを生んできました。今や全国的なイベントになっている「打ち水」という風習や、「浴衣」、「甚平」などの着物、「簾(すだれ)」、「よしず」などの住居関連器具、「扇子」、「団扇」などの道具、聴覚で涼を得る「風鈴」など、数多くのものが風土の中で生まれてきました。その中でも『夕涼み』は単に涼を求めるのみならず、日本の文化として深く溶け込み、地域のコミュニケーションの場としても重要でした。
すずみ台 ぎしりぎしりと 人がふえ 路地口を かかあで埋める 夕涼み
写真 現在の難波橋
昭和になる以前、浪花を代表する南北道は堺筋であったが、その堺筋において土佐堀川・中之島公園・堂島川にかかる橋が難波橋である。橋柱にライオンの彫刻が備えられていることから、「ライオン橋」とも呼ばれる。
このような句が残っているのも、「夕涼み」という風習がいかに日本の生活に馴染んでいたかを物語るものだと思います。
もちろん大阪でも夕涼みは盛んでした。特に大川(土佐堀川・堂島川)にかかっている難波橋周辺は、江戸時代のころから夕涼みの場所として親しまれていたそうです。この様子は難波の絵師 松川半山の「納涼風俗図」にも描かれていますし*2、上方落語でお馴染みの喜六・清八が夕涼みがてらに、屋形船を見ながら軽妙なかけあいをする「遊山船(ゆさんぶね)」の舞台ともなっており、その名所ぶりは相当なものだったことがうかがえます。
また、「遊山船」という題目のとおり、大阪では船上での夕涼み、舟遊びも盛んでした。近松門左衛門の今宮心中の最初のくだりでは「月見、花見はいづくも同じ諸国名所のその中々に類なにはの舟遊び、老いも若いも下人も主も男女がござござ舟に、袂涼しき川風は秋といひてもうそでないよのじゃれでないよの、・・・。」とあることから、その涼しさ・快適さを求めて舟遊びに興じる人たちが多かったことは想像に難くありません。
大阪は、江戸の「八百八町」に対して、「八百八橋」といわれるほど橋が多く、つまりはそれだけ川や水路が多かったといわれています。そのため、夕涼みの場所も、川にまつわる場所が自然とクローズアップされたのかもしれません。
以上のように、川を中心に大阪で親しまれていた夕涼みですが、今では盛んに行われているとは感じられません。どうしてでしょうか。そう、夕涼みするにも暑すぎるのです。以前は、昼は暑くても、夕方から夜半にかけて、いくぶん涼しくなっていましたが、今は夜半になっても暑いままで、寝苦しい夜を過ごすことが多くなっています。だんだん大阪は暑くなっているのです。
(参考)落語 遊山船
上方落語でお馴染みの喜六、清八という名コンビが、行水で汗を流したあと、連れだって難波橋へと夕涼みに出掛け、舟遊びの船を見ながら、橋の上で軽妙なかけあいをしたり、船上の人とのやりとりするさまを落語にしたもの。夏にピッタリのねた。故笑福亭松鶴氏、桂ざこば氏など、多くの落語家が各自のオリジナリティーを出しながら演じている。
(参考)近松門左衛門 今宮心中
(「遊山舟の場」冒頭の現代語訳)
月見花見はどこでもおなじ、諸国名所の数ある中でも、類のないのは難波の舟遊び。老人も若者も、使用人も主人も、男女とりまぜ御座舟に乗って、袂を吹く涼しい川風は、秋といっても嘘ではないよ、冗談ではないよ、本当だよ。(新編日本古典文学全集 近松門左衛門集(2) 上野明雄 小学館)
1 暑くなる大阪
それでは、実際に大阪の夏がどれぐらい暑くなっているのか検証してみましょう。
図1は大阪と全国の年平均気温の経年変化です。大阪も全国平均も暑くなっていることは一目瞭然ですが、特に大阪の上昇率は全国平均の2倍以上となっており、この100年ほどで約2.1℃上昇しています。
次に図2、3には日本の主要都市の真夏日数、熱帯夜数の経年変化を示しています。瀬戸内地域の温暖な気候帯にあることから、過去から他の都市よりも真夏日が多いのですが、この30年間で真夏日数で約1.4倍、熱帯夜数で約1.9倍と増加しています。
真夏日・・・日中の最高気温が30℃以上の日のこと。
熱帯夜・・・夜間の最低気温が25℃以上の日のこと。
各年毎の偶然的要素を排除するため、各年を中心とした5年間の平均値を求め、データの変動を滑らかにするという統計手法の一種。
最後に大阪府における20年前(1979〜1981年)と現在(1999〜2001年)の気温分布の状況を図4に示しています。この図から、昼間には内陸部の市街地において気温が高くなっているのに対して、夜間においては、大阪市から堺市を中心に高温域が拡大していることがわかります。
以上のように、さまざまなデータが、大阪がだんだんと、そして確実に暑くなっていることを証明しています。
2 原因は ‐ ヒートアイランド現象
これほど大阪が暑くなっているのは、どうしてでしょうか。その原因は、地球温暖化とヒートアイランド現象という2つの温暖化と考えられています。ただ、大都市である大阪では、図5のように、ここ100年間の年平均気温の上昇率が全国平均よりも約1.1℃大きくなっており、この差がヒートアイランド現象による上昇と考えられています。
図6 人間も熱を出している*3
人間の体は、常に呼吸をしたり体温調節をしており、脳や内臓も働いています。基礎代謝とはこのような人間の生活を維持するために必要とされるエネルギーのことです。対して、運動代謝とは、歩いたり、掃除をしたりといった運動で燃焼されるエネルギーのことです。
それでは、このヒートアイランド現象はどのようなメカニズムで発生するのかについて考えてみます。
実は人間自身も多くの熱を発生させているのです。図6にひとりの人間(身長170cm、体重63kg の事務作業に従事している成人男性)が摂取したエネルギーの行方をまとめています。一日に必要なエネルギー摂取量は約2,000kcal で、それらのエネルギーの大部分は基礎・運動代謝により熱に変換されて周囲に対流・放射・蒸発の形で放熱されます。室内で事務作業を行っている場合、摂取したエネルギーの約9割が周囲に放熱されます。つまり人間一人当たり約100Wの発熱源となり、一般のオフィスでは、この熱量は室内の冷房負荷としていったん空調機が受け取り最終的には屋外に放出されます。また、一般家庭の生活や自動車の走行、工場などにおいても、図7のように多くの熱がでており*3、家電製品の普及や自家用車の大型化などにより、その排熱量は増加しています。
このように、人間の生活・活動からは、様々な熱が出ており、都市化に伴って多くの人間が集中して生活・活動すると、空調施設を設けた事務所や住宅、自動車の走行、工場での活動もあわせて増加していき、その結果、人工的な排熱も爆発的に増加することになります。
また、コンクリートで覆われたオフィス街よりも、芝生や植物、水面のあるところはひんやりと感じます。これは、芝生や水面などから水分が蒸発するときに周囲から気化熱という熱を奪うため気温が下がるのです。たとえば、洗い髪のままでいると風邪をひくといわれますが、これも水分が蒸発するときに頭部から熱が奪われて、体が冷えてしまうからなのです。一方、緑地や水面等の自然空間が失われた地域では、植物や水面、地表からの水分の蒸発や蒸散が減少し、気化熱による地表面の冷却が進まなくなります。さらに、都市化の象徴であるアスファルトやコンクリートは、熱をためやすい性質があるため、太陽熱が蓄えられ、特に夜間にその蓄えられた熱が放出されるとともに、場合によってはビル等の人工構造物が風の流れを妨げ、風による冷却作用をも阻害してしまうのです。
以上のように、ヒートアイランド現象は、人工排熱の増加、地表面の人工的被覆、人工構造物による風の変化、という3つの主要因により出現するのです。これらの3つは、全て我々の生活の基盤となっているものです。つまり、ヒートアイランド現象は、大阪という大都市において、生活・活動している我々が産み出している「熱汚染」であるとも言えるのではないでしょうか。
3 ヒートアイランド現象の影響
では、このようなヒートアイランド現象が顕著になると、どのような影響が見られるのでしょうか。地球温暖化の影響とヒートアイランド現象の影響を明確に切り離して考えるのは不可能ですが、可能な限りヒートアイランド現象による影響を抽出してみました。
■夏季の冷房使用の増大(2つの温暖化の加速)
ヒートアイランド現象が進行することにより、夏季における冷房使用が増大し、人工排熱も増加することが予想されます。人工排熱が増加すれば、当然ながら、さらにヒートアイランド現象を進めるという悪循環を引き起こすことになります。また、冷房使用の増大に伴って、エネルギー消費量も増加し、地球温暖化にもつながってしまうという、もう一つの悪循環も引き起こします。つまり、都市域では、2つの悪循環、2つの温暖化の加速が成立してしまうのです。
■健康への影響
ヒートアイランド現象が顕著になると、高温によるストレスにより睡眠不足などを招くといわれていますが、実はより深刻な健康影響をも引き起こしています。図11は大阪市内の年間熱中症搬送者数と夏季(7〜9月)の気温33℃以上を記録した時間数の推移を重ね合わせたものですが、高温を記録した時間数が多い年に熱中症の搬送者数が多くなっていることが判ります。つまり、ヒートアイランド現象が進むことにより、熱中症の危険が高まっていきます。このままヒートアイランド現象が進行していけば、夏季のレクリエーション活動が制限されるなど、様々な場面で制約が増えていくことも考えられます。
また、1日の最高気温と総死亡率の関係から、気温33℃を境目に高齢者(65 歳以上・男性)は高い死亡率を示しており、高温による免疫力の低下、発汗による水分補給不足からくる脱水症状、血液循環量の減少等に高齢者が耐えられないことなどが原因であるとの報告*5もあります。
■大気環境への影響
ヒートアイランド現象は大気環境にも影響しています。夏季を中心に涙が出たり、のどや鼻が痛くなったりするなど、粘膜を刺激する光化学スモッグは、工場や自動車から排出される窒素酸化物や炭化水素が、一定の条件のもと、紫外線を浴びて光化学反応を誘引して発生するものですが、この光化学反応は、その日の最高気温が25℃以上になると著しく反応が進むと言われています。つまり、ヒートアイランド現象が顕著になればなるほど、光化学スモッグの発生が増加する可能性があります。
また、冬季の弱風晴天時の夜間には放射冷却(大気や地表面が赤外線放射により冷却する現象)によって、地表面付近が冷やされ、上空の方が気温が高くなるという逆転層が形成されます。このような逆転層が形成される場合に、都市部においては、ヒートアイランド現象のために生じる上昇気流が逆転層によりおさえつけられ、大気中のちりなどがたまるダストドーム(混合層)が形成されます。ちりと同じく、大気汚染物質も拡散することなく、このダストドーム内にとどまってしまうことから、大気汚染が助長されるといわれています。
■動植物への影響
動植物にも影響が出ています。地球温暖化の影響も考慮しなければなりませんが、図14は大阪市での動植物の開花・初鳴きなどが最初に確認された日の経年変化を示しています。この図からわかるように、これらの動植物の開花・初鳴きなどは、程度の差こそあれ、明らかに早くなっています。
また、平成16年度に大阪府内の小学生たちが参加して行ったセミの脱け殻調査では、セミの脱け殻が2万個以上集められましたが、それらを分類した結果、1950年代まではあまり見かけられなかったクマゼミが全体の57%に達し、逆に多く見られていたアブラゼミが32%にとどまり、ニイニイゼミは1.6%しか見られませんでした。特に大阪市内や堺市の旧市街地ではクマゼミの出現率が70%を超えていました。クマゼミは、比較的暖かい地方に生息することから、都市部での生息率が上昇しているということは、ヒートアイランド化が進んでいるとの考え方もあります。
このような、動植物の空間的・時間的な変化はそれらを取り巻く生態系へも影響を及ぼすことになるとの報告もあることから、これまでの多くの環境問題がそうであったように、やがて我々の生活に跳ね返ってくるのではないかと危惧されています。
4 広がりつつあるヒートアイランド対策
このようなヒートアイランド現象を食い止めるためには、どのような対策があるのでしょうか。大阪府では、平成16年6月に策定した「大阪府ヒートアイランド対策推進計画」において、その対策の基本を3つ挙げています。
(1)省エネ機器の導入、ライフスタイルの改善等による人工排熱の低減
(2)土地や建築物の表面被覆の改善による表面温度の高温化抑制
(3)風や緑、水による冷却作用の利活用
ここでは、この3つの基本の観点から、府内や日本において広がりつつあるヒートアイランド対策について、紹介したいと思います。
(1)省エネ機器の導入、ライフスタイルの改善等による人工排熱の低減
■省エネ機器の開発
製品に関わる原材料の採取から、製造、流通、使用、廃棄に至る全ての段階を通して、環境への影響を定量的に把握(測定)し、評価すること。
図15 エアコンのエネルギー消費量の推移*7
省エネ機器は、消費するエネルギーが少なくなるため、人工排熱の低減も図れます。つまり、省エネ機器の導入は、地球温暖化対策としてだけではなく、ヒートアイランド対策としても有効です。一般家庭において、総電力消費量の約16%を占める*6照明についても同様のことがいえ、照明が大きく・多くなれば発熱量も大きくなり、夏季には冷房効率を妨げるまでになります。大手電機メーカーA社では、無電極照明という省エネ型の照明を開発・販売しています。この製品は、既存の電球に比べて長寿命なだけでなく、エネルギー消費量も5分の1(つまり5倍の高効率)となっており、当然ながら発熱量も、それに応じて低減されています。このA 社では、その他にも、長寿命、省エネ型の一般照明用LED(発光ダイオード)照明機器の開発にも成功しています。このように、各メーカーにおいて様々な省エネ機器の開発が、LCA等も考慮して進められており、その成果もあって、例えば、エアコンの平均的なエネルギー消費量は、10年前と比較し約40%の低減が図られています(図15)。
■省エネラベル
前述のように、省エネ機器の開発は広がっていますが、実際にそれらを購入しようと家電販売店に行っても、どの製品が省エネ型であるか判らないという方も多いのではないでしょうか。各製品の省エネの程度が一目で分かり、全国共通の表示形式ならば、消費者により受け入れられやすいはずです。そのような要望に応えるため、全国各地域の地方公共団体やNPO等から構成される全国省エネラベル協議会により、製品のエネルギー効率、販売価格と電気代の総額、省エネ性能(5段階)を表示する省エネラベル(図16)が提案されており、実際に一部販売店ではエアコンの製品表示に使用されています。大阪府の調査によるとエアコンと冷蔵庫を購入する際に省エネ型かどうかを重視する人が、ともに80%を上回っていることからも(グリーン購入についてのネットパル H16.11)、消費者の要望に添うかたちで、同ラベルを使用する販売店は増えていくでしょう。
■夏のエコスタイル(クール・ビズ)
図10のような夏の冷房による2つの悪循環を断ち切るためには、冷房の使用を抑制するため、設定温度を適正温度の28℃にすることが必要です。そのような適正冷房を実施するオフィスにおいて快適に過ごすために、夏のノーネクタイ、ノー上着ファッションを推奨する「クール・ビズ」(関西では平成11年度より関西広域連携協議会が推奨している「夏のエコスタイル」)が、各メディアで大きくとりあげられました。実際、銀行などの接客業においてもクール・ビズを採用する企業が増えており、環境ISOの大手審査会社であるB社の関西支社では、各企業等へ出向いての審査もクール・ビズであたるなど、その広がりはさらに大きくなりつつあります。なお、このクール・ビズですが、適正冷房という目的だけでなく、快適さや動きやすさという側面からも、また過度の冷房を敬遠する女性からも好評です。
(2)土地や建築物の表面被覆の改善による表面温度の高温化抑制
■屋上緑化
先にも説明したとおり、コンクリートでできた建造物は熱をためやすく、夜間を中心にその熱を放出するため、ヒートアイランド現象の一因となっています。また、ビル等においては、屋上からの伝熱により最上階が高温となるため、より強い冷房が必要となり、結果的に人工排熱も増加してしまい、ヒートアイランド現象をさらに助長します。最近、植物の持つ蒸散作用により表面温度を和らげるなど、ヒートアイランド現象を緩和する効果のある屋上緑化が脚光を浴びています。特に人が立ち入るような屋上については、ヒートアイランド対策以外にも景観の向上や癒し効果などをも目的に導入する建造物が増加しています。平成15年10月に大阪球場跡地にオープンした「なんばパークス」では、2〜8階部分の屋上、約8,000平方mに、235種4万株もの草花や木々が植えられました。このような屋上緑化については、経費や施工技術上での制約もありますが、地方自治体による屋上緑化を義務付ける条例の制定、誘導策としての規制緩和や助成制度も整備されつつあることから、その導入は広がっています。
なお、緑化以外にも、屋上の表面温度を下げるための高反射性塗料による塗装や、バルコニーや軒先にアサガオやきゅうりなどのつる性の植物をネットにはわせ、夏の日差しや外気をさえぎる「緑のカーテン」なども注目を集めています。
■熱をためない舗装(透水性舗装)
屋上だけでなく、道路表面なども太陽熱を蓄えて、ヒートアイランド現象を助長しています。透水性舗は、雨水などが地中に浸透するように隙間が設けられた舗装材で舗装する方法で、元々は豪雨時などの河川の氾濫防止や地下水の涵養などが主目的でしたが、地中の水分を蒸発させるとともに、通常の舗装に比べて太陽熱の蓄積を緩和できるために、最近ではヒートアイランド対策としても施工されています。なお、この透水性舗装以外にも、保水剤を含んだ舗装材による舗装や、日射反射率の高い表面処理剤を塗布した舗装などにも、ヒートアイランド現象を抑制する効果があります。
(3)風や緑、水による冷却作用の利活用
■校庭の芝生化
土やコンクリートで覆われた学校の校庭を芝生に変えることは、ヒートアイランド現象の緩和や砂ぼこり対策などの地域環境の改善や、「遊び」の変化により外で遊ぶことが少なくなった子どもたちが、いろんな友達と一緒に外で遊ぶ機会が増えるなど、様々な効果があります。最近、校庭に芝生を植えようという活動が注目されていますが、この活動の特徴は、単に校庭に芝生を植えるだけでなく、学校や地域、NPOなどが一体となって、芝生の維持管理までを含めて取り組んでいることです。地域で子どもたちを健やかに育て、地域でヒートアイランド現象を考える、そんなネットワークも広がりつつあります。
■打ち水
打ち水は視覚的にも涼しさを感じさせてくれるだけでなく、まかれた水が蒸発するときに地面から熱を奪うため、気温を下げる効果があります。さらに、打ち水により、局所的な温度変化、気圧変化を引き起こすことで、風が生じます。このことから、「風を起こそう」を合言葉に、今や全国的な運動となっている「打ち水大作戦」が、今年も御堂筋で8月10日に約3,000人を集めて行われ、風呂の残り水などを打ち水することにより約1.8℃の気温を下げることに成功しています。また、北大阪地域では、府民・NPO・企業などから構成された「北大阪打ち水ネット」が立ち上がり、北大阪地域の夏祭りなどにあわせて下水の高度処理水などを利用した打ち水を行い、多くの参加者を得ることができました。このように、まちを涼しくするために、楽しみながらできる打ち水という活動の輪が急速に広がっています。
なお、この打ち水は、水道水を使用するのではなく、風呂の残り水や雨水を利用するように努めることにより、水の大切さ、水循環の大切さを学ぶ場ともなっています。
このようなヒートアイランド対策以外にも、様々な場面で、様々な主体による取り組みが広がりつつあります。我々の生活から産み出された「熱汚染」であるヒートアイランド現象ですから、地球温暖化対策とあわせて、今後も継続して取り組んでいき、その取り組みの輪を広げていかなければなりません。
‐おわりに‐ 夕涼みしたい!
夕涼みが地域のコミュニケーションの場としても重要な位置を占めていたことは「はじめに」で述べましたが、その他の夏の風習や道具にも、涼をとるだけでなく、いろんな意味が含まれていました。「もったいない」という言葉は、古来から日本人がものを大切にしてきたという精神を表していますが、浴衣はまさにそれを具現化しており、古くなれば雑巾やおしめに再利用されていたそうです。風鈴も音風景の大切さを教えてくれます。そして、打ち水は水循環の大切さを教えてくれます。打ち水で濡らすことで冷却効果が高まるよしずは、琵琶湖や淀川の水質汚濁物質をとりこんで育った葦からできており、まさに水質保全に一役買っています。
脈々と受け継がれてきた夏の風物たちの、そんな隠れた意味にも思いを馳せながら、少し昔に戻って、家族だけでも、またはご近所の人と一緒に夕涼みをし、ちょっとした風を、ちょっとした涼しさを感じることができる贅沢さを味わってみたいとは思いませんか。そんな贅沢さを味わえる粋(すい)な生活を送ってみたいと思いませんか。
大阪には八百八橋といわれるほど多くの橋が架かっていたと「はじめに」で述べましたが、実際には200ぐらいしかなかったそうです。ただ、そのうち公儀橋といわれる、いわゆる官が架けた橋は天満橋や浪速橋などの12橋だけ。つまり、それ以外は民の力により架けられた「町橋」だったのです*1。180以上もの橋を架けることができた、そんな大阪の人たちにはパワーがあふれています。そう、大阪のヒートアイランド現象も、我々一人ひとりが、できることをやっていくことで防ぐことができるはずです。そうすることにより、近い将来、寝苦しい夜が少なくなり、夕涼みもしやすくなり、あちこちの橋の上で、喜六と清八の軽妙なかけあいが聞けることでしょう。
(出典)
*1 下山弘:川柳 江戸の四季,中央公論社(1997)
*2 大阪市北区ホームページ えぇとこガイド
*3 森山正和編:ヒートアイランドの対策と技術,学芸出版社(2003)
*4 ヒートアイランド現象による環境影響調査検討委員会:平成16年度ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査検討業務報告書(2005)
*5 須貝高(すがいたかし)住まいと健康ホームページ
*6 資源エネルギー庁編:平成16年度電力需給の概要
*7 (社)日本冷凍空調工業会しらべ
パリでは4年前から夏の約1ヶ月の間、セーヌ河沿いの道路を自動車進入禁止にし、運んできた砂で浜辺をつくり、市民に楽しんでもらおうという「パリ・プラージュ」というイベントが開催されています。ビーチバレーや水着での昼寝を楽しむ人たちでにぎわっているそうですが、実は夜間の夕涼みが最も人気があるとのこと。やはり、パリジャン・パリジェンヌも我々と同じように、自然な風の中での夕涼みに居心地の良さやコミュニケーションの場を求めているのでしょう。
大阪府も、これ以上、大阪のまちが暑熱化していくことを防ぐため、地球温暖化対策とあわせて、ヒートアイランド対策に取組んでいます。
■計画的な推進
ヒートアイランド現象は、何十年にもわたる都市化とエネルギーの大量消費の結果として現れてきたため、一朝一夕に解決できる問題ではありません。そのため、総合的・計画的な対策に継続して取組んでいく必要があります。そこで、平成16年6月に、2025年度までに熱帯夜を3割減らすことなどを目標とし、対策の基本方向、具体的な方策、その推進体制を定めた「大阪府ヒートアイランド対策推進計画」を策定し、総合的にヒートアイランド対策に取組んでいます(表1参照)。
■みどりいっぱい大阪クール化プロジェクト
「大阪再生に向けた7つの戦略的取組」の一つとして、「快適な都市環境の創造、着実な自然再生」を掲げていますが、特に図1のような「みどりいっぱい大阪クール化プロジェクト」として、みどりを増やす取り組みとあわせ、各種のヒートアイランド対策を推進しています。
例えば、「北大阪涼しいみちから“まち”づくり事業」では、ヒートアイランド優先対策地域内である北大阪地域を中心に、7月〜8月に下水高度処理水を利用し、市街地部の府管理道路14路線への散水を実施するとともに、府民とのパートナーシップを軸に、様々なイベントや学習会で「打ち水」を実施し、老若男女、多くの方の参加を得ることができました。このような府民協働等による活動が継続されることにより、打ち水の輪「北大阪打ち水ネット」がさらに広がっていくことが期待されます。
また、「大阪ヒートアイランド対策集中実施促進事業」では、熱赤外センサー搭載の航空機から撮影・解析した熱画像と、土地利用データ、人工排熱データ、気象条件等を併せて解析した熱環境マップを作成します(図2参照)。この熱画像及び熱環境マップをもとに、住宅地区、業務地区ごとに課題地区を抽出し、対策メニューの洗い出しを行い、集中的・効果的なヒートアイランド対策を推進していきます。
■条例による2つの温暖化対策
以上のように、さまざまな事業を展開していますが、より効果的に、より大きな枠でヒートアイランド対策を進めるために、地球温暖化を含めた2つの温暖化への総合的対策として、「大阪府温暖化の防止等に関する条例」の制定及び「大阪府自然環境保全条例」の一部改正を行いました。前者の条例では、エネルギーを多量に使用する事業者には温暖化対策計画書、大規模建築物の新増改築を行う建築主には建築物環境配慮計画書の提出を求めることにより、エネルギー対策や建築物対策を促すものです。また、後者の条例では、1,000平方m以上の敷地における建築物の新築・改築・増築において、緑化基準に基づく緑化を義務付けるとともに、緑化計画書等を届け出てもらい、建築物や敷地の緑化を着実に進めようというものです。ともに平成18年4月1日から施行することとしています。
以上のような、様々な対策を進め、2つの温暖化を緩和し、大阪を「住みやすく」、「働きやすく」、「訪れやすく」することにより、大阪の都市格を向上させ、「豊かな環境都市・大阪」を創りあげていきます。






























