‐はじめに‐ 豊かな大阪湾
1 大阪湾は汚れている?

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また、河川水中には窒素やリンといった栄養分が含まれており、海域の生産者として大切なプランクトンを育んでいます。しかし、大阪湾では、先に述べた3つの河川の影響もあり、湾奥部を中心にそれらの栄養分が過剰となる「富栄養」な状態となってしまっており、そのため、海中を浮遊する微細な藻類などのプランクトンが異常に発生する「赤潮」を誘発しています。そして、プランクトンの異常発生により表層の有機物の量も増えすぎてしまい、CODの値がさらに高くなるという現象も起きています。(図6)。 |
![]() 図6 大阪湾の主な汚濁メカニズム(イメージ)
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さらに、夏期を中心とした高水温時には、軽くなった海水が表層に漂い、海底の冷たくて重い海水と混ざりにくい状況になっています。そのため、富栄養化した海では、海底付近に沈んだ有機物がバクテリア等に活発に分解され、その際に多量の酸素が消費されるため、底層の酸素濃度が非常に低くなる「貧酸素化」が引き起こされています(図7) ■大阪湾のゴミ先のアンケートでは、約61%の方が大阪湾のイメージを「ゴミが多い」と回答されていました。 大阪湾で見られるゴミは、レジ袋やペットボトルといった私たちの生活から出るものが大半ですが、中にはゴルフボールや野球のバットのようなものか ら、注射針等の危険なものまで、様々なゴミが大阪湾に流れ着いています。これらのゴミは海面を浮遊 した後、海岸に漂着したり、海底に堆積し、船舶や漁業の妨げになるとともに、生物にも悪影響を及ぼ しており、大阪湾に流れ込むそれらのゴミの量は年間約15,000m3(4トントラック2,000台分)にもな ると推計されています*5。 古くは「ちぬの海」とも言われていた大阪湾では、日本の海域別に見ても最も多い228種類もの漁業生物の生息が確認されています。そのためか、大消費地近郊であるという利点もあわさり、漁業は活発に営まれてきました。沿岸部の砂泥域のカレイ類、エビ類、カニ類、岩礁域のクロダイ(ちぬ)、カサゴ、マダコ、河口域のスズキ、ボラ、表層付近のイワシ類などが、底びき網や刺網、船びき網、まき網などの多種多様な漁法により漁獲されてきており、昭和57年にはマイワシの豊漁により、単位面積当たりの漁業生産量が全国1位になるほどの豊かさを誇っていました。 しかし、現在の大阪府の漁獲量は年間15,000〜20,000トンの間で推移しており、最盛期の約50%となっています。特に底びき網の漁獲量は、ピークであった昭和39年の約10%にまで落ち込んでいます。 このような漁業資源の減少の理由の一つとして、魚介類の産卵・育成にとって大切な場となる藻場等の浅場や干潟、自然海浜の消失が考えられています。 これまで見てきたように、湾南西部の水質は比較的よいものの、残念ながら、富栄養化やゴミの問題など、現在の大阪湾にはアンケート結果(図2)にあるようなイメージがあてはまるのも事実です。特に湾奥部では「魚庭」と呼ばれた頃のような、生き物にとって快適な海であるとは言い難い状態です。 |
![]() 図7 海底付近の貧酸素化の発生事例(平成16年度) ![]() 写真5 底びき網にかかったレジ袋などの海底ゴミ ![]() 写真6 貴重な自然干潟の一つである男里川河口 干潟とそこに棲むハクセンシオマネキ |
2 私たちも大阪湾を汚している!
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大阪湾が、このような状態になってしまったのはどうしてでしょうか。レジ袋やペットボトルのポイ捨てなどは論外ですが、実は、私たちの暮らしの中で当たり前にしていることが、大阪湾を汚してしまっているのです。ここでは、私たちの生活が大阪湾に与える影響について、海から河川へ、河川から家庭へ、遡りながら考えてみましょう。 大阪湾へ有機物を大量に運んでいるのは、水量の多い淀川、大和川及び神崎川の3つの河川であることは事実です。しかし、泉州地域を数多く流れている河川(以下、「泉州諸河川」という。)も大阪湾の水質にとっては、無視できない存在となっています。表1は平成16年度末における府内の市町村別の生活排水処理率を示していますが、泉州地域の市町村では総じて低くなっていることが分かります。つまり、泉州諸河川には未処理の生活排水が比較的多く流れ込んでおり、水量は多くないものの、その汚濁の濃度は非常に高くなっています。その結果、表2にあるように、河川の汚濁の指標であるBODの値については、淀川、大和川及び神崎川の主要な河川の約1.6〜8.3倍にもなっています。 次に河川の汚濁の原因についてみてみましょう。図8は河川の汚濁の原因の割合を円グラフで示したものですが、下水処理場や浄化槽によって処理されている排水も含め、生活排水が80%を占めていることがわかります。つまり、私たちの家庭からの排水こそが、たとえ下水処理場や浄化槽を経由していても、河川を汚し、そして大阪湾を汚している主要な原因 であることが分かります。 それでは、私たちの家庭のどのような行為が、どれほど河川や大阪湾を汚しているのでしょうか。図9は、私たち1人が1日のうちに家庭で流す汚水の割合を示したものですが、これによると、台所からの汚水の影響が40%と最も大きいことが分かります。 私たちが、普段の生活の中で、当たり前のこととして食器を洗ったり、洗濯していることが、河川の汚濁につながり、そして、大阪湾を汚してしまっていることが分かっていただけたでしょうか。 |
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![]() 図8 河川の汚濁の原因(平成16年度推計速報値) |
3 私たちができること
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大阪湾を汚している私たちですが、最も影響の大きい台所を中心にちょっとした工夫を凝らせば、河川を、そして大阪湾を大いに助けることができます。まずは、洗剤を余分に使用しないように心掛けることが大切です。洗剤は食器の汚れをきれいにするために必要ですが、実は洗剤自体も水を汚しているのです。最近の技術開発により、環境への影響が小さい洗剤も販売されていますが、必要以上の洗剤を使えば、排水はそれだけ汚れることになります。「使用上の注意をよく読み、用量を守って使うこと」は、河川や大阪湾のためにも必要なことなんです。無論、石けん、シャンプー、洗濯用洗剤などでも同じです。 簡単な工夫では、水切りネットも効果的です。排水口のつまり対策として既に実践されている方も多いと思いますが、流し台の三角コーナーや排水口にセットすれば、調理かすや食べかすなどのゴミをしっかりキャッチします。使用済みのストッキングなどを利用するのもいいでしょう。 ちょっと面倒かもしれませんが、ゴムベラも有効です。カレーやシチューがついたままの食器などは、そのまま無意識に洗ってしまいがちですが、洗う前にゴムベラでそれらを根こそぎとってしまえば、排水中の汚れを少なくすることができます。さらには、洗剤や水を節約することもできます。油汚れの場合には古新聞を利用して拭き取るのも効果的です。 少しかわったところでは、洗剤をあまり使わずに、食器の汚れを落とすことができる特殊なスポンジ(メラニン樹脂スポンジ)があります。食器にこびりついてしまった、しつこい汚れには最適です。また、流し台やグリル周り、お風呂などの生活の汚れ全般に幅広く使えるようです。 このように、洗剤を適正に使用することを心掛け、台所グッズを上手に使えば、大阪湾を汚さずに、お財布にもやさしい暮らしができるのではないでしょうか。 |
![]() 図9 生活排水の分類とその汚濁の割合 ![]() 写真7 ゴムベラの使用前後(カレー鍋) |

4 もっときれいに! もっと豊かに!
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私たちが、家庭で大阪湾を助けようとするように、いろんな人たちが、いろんなところで、水をきれいに、そして大阪湾を豊かにしようと努力しています。ここでは、そんな活動について紹介します。 |
■アマモの育成 海の植物は海中の過剰な栄養分を吸収し、水質を改善するのに役立つだけでなく、魚介類の産卵・育成にとって重要な場でもあります。 きれいで穏やかな海に生育するアマモは、産卵場や稚魚が育つ場となることから「海のゆりかご」ともいわれています。かつては、大阪湾に広く分布していたのですが、現在ではあまり見られなくなってしまいました。そこで、大阪湾南部の海岸では、アマモの生息域を拡大するため、NPOやボランティアダイバーが中心となって、海底調査を実施したり、アマモの種子を入れた育成キットを作成し、みんなで苗を育て、それを大阪湾に移植していくような取り組みも始まっています。 |
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| ■大阪湾水質一斉調査 大阪湾をきれいにするためには、まずは大阪湾の汚濁の状況を確実に把握することが必要です。そのため、国や自治体により継続した調査がこれまでも実施されてきました。しかし、大阪湾の汚濁の全体像を、より的確に把握するためには、同じ時間帯に、できるだけ多くの地点で一斉に調査しなければなりません。ただ、国や自治体だけでは限界があるため、平成16年からは、国や自治体に加え、研究機関や企業等も参加して、琵琶湖から大阪湾までの一斉水質調査を実施しています。平成18年からは、自治体や企業等が478地点で調査する一方、普段から大阪湾と触れ合っている釣り人やNPOも新たに参加し、さらに詳しい水質データを得ることができるようになりました。 |
![]() 図10 大阪湾水質一斉調査地点(平成18年度国・自治体・企業・研究機関分) |
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| ■コンブによる水環境改善 大阪の食の文化は「合わせる文化」とも言われています。その代表格である「合わせだし」の一翼を担う「コンブ」は昔から大阪に馴染みの深い食材でした。「塩昆布」や「酢昆布」の発祥の地であること からもそのことはうかがい知れます*3。 大阪湾北中部の堺市浜寺水路や岸和田港では、そ のコンブを人工海岸の垂直護岸に設置する実験が行われています。コンブが育つ際に、大阪湾で過剰と なっている窒素やリンといった栄養分を吸収してくれることから、水質浄化や生物環境の改善につなが ることが期待されています。この実験は地域の人たちや漁業者、NPOの協力のもと、小学生たちが中心 となって取り組んでおり、大阪湾の環境を実体験を通して学習しています。 先にも述べましたが、大阪湾の海底や海岸には沢 山のゴミが見られ、その多くは私たちの生活から出てくるビニールや発泡スチロール、金属類などです。 これらは放置していても、分解したり、生物の栄養になることはなく、むしろ生物のすみかを乱し、生 態系を脅かす可能性もあるものです。このようなゴミを回収しつつ、ゴミを捨てないように呼びかけるような市民参加型の大規模清掃活動が毎年行われています。 「大阪湾クリーン作戦」では、環境月間である6月に、大阪湾全域で、船やダイバーによる浮遊・海底ゴミの回収を、浜辺や流入河川では一般の方も参加した清掃活動を実施しており、平成18年には、約770トンものゴミを回収しました。 |
![]() 写真9 ボランティアダイバーによるアマモ場の再生 ![]() 写真10 アマモと育成キット ![]() 写真11 小学生たちによるコンブ育成実験 ![]() 写真12 ダイバーによる海底ゴミの回収 |
| ■魚庭の森づくり 大阪湾に水を供給しているのが河川ならば、その河川に多くの水を供給しているのが森林です。森林に降り注いだ雨は、谷に集まりながら河川や地下水となって流れていき、一部を私たちが飲料や水田などに利用し、河川を通って大阪湾へ流れていきます。間伐や枝打ちなどの整備が行き届いた森林は、光が射し込むため、木々は大きく育ち、適度に下草が生えて、土砂の流出を抑えることができます。また、そういった森林には様々な動植物が共生し、豊かな生態系が構築されています。さらに、落ち葉は腐葉土となって豊かな土壌をつくり、水に適度な栄養分を与え、河川や大阪湾に棲む生物たちの恵みとなっています。また、そのような土壌は雨水を十分に蓄えます。土砂の流出を抑え、雨水を蓄える、そんな「緑のダム」といわれる機能がうまく働き、日照りが続いても水が枯れず、河川の安定した流れを維持することができるのです。そう、森・川・海はつながっており、ひとつのものなのです。 しかし、現在、多くの森林は間伐や枝打ちなどを行う担い手が少なくなり、放置されることにより竹林が拡大するなど、荒廃が進んでしまっています。そのため、手入れがなされない森林は、地表の動植物から光を奪い、下草もなくなり、地面が剥き出しになるなど、豊かな生態系がこわれてしまうのはもちろんのこと、土砂の流出を防ぐことができなくなり、さらには雨水を蓄えることもできなくなってしまいます。その結果、大雨時の土砂災害や下流域での洪水などを引き起こすような危険な状態さえ生み出していますし、流出した土砂は遠く大阪湾まで運ばれ、魚介類にとって大切なすみかである藻場などを脅かしてしまうのです。そうです、森がだめになれば、海までだめになってしまうのです。 そこで、森を守るために立ち上がったのが、海で仕事をしている漁師さんたちでした。「海を良くするためにも森を守らなければならないんだ」。そのことを、一番強く感じているのが漁師の方々だったのです。大阪の漁師の方々は大阪湾の環境を改善するため、「漁師は海の護(まも)り人」を合い言葉に、堺市、岸和田市、貝塚市、泉南市において「魚庭の森づくり」活動に取り組んでいます。 ここに紹介した活動以外にも、様々な活動が始まっています。大阪湾をもっときれいに、そしてもっと豊かにするためには、家庭での工夫のような小さなことであっても、継続して取り組んでいかなければなりません。 |
![]() ![]() 写真13 魚庭の森づくり |
−おわりに− 魚庭の海の復活
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大阪の夏祭を彩る鱧(はも)は、「魚」に「豊」と書きますが、そのいわれは調理法が豊かであるからだといわれています。大阪では、その豊かな調理法により、身はもちろんのこと、皮までを食しており、道頓堀を舞台にした小説「鱧の皮」(上司小剣)の中にも、「鱧の皮、細う切って、二杯酢にして一晩ぐらゐ漬けておくと、温飯に載せて一寸いけるさかいな」とでてくるほどです。鰻(うなぎ)だって、大阪ではきれいに丸ごと食していました。香ばしい「骨せんべい」は鰻の骨を揚げたものですし、「半助」と呼ばれる鰻の頭は、焼いてから豆腐や野菜と一緒に煮ていました。まさに、ものを粗末に扱うことを嫌う、大阪人の「しまつの心」の現われといえるのではないでしょうか。 水に関しても、粗末にするのではなく、「しまつ」することが必要です。洗剤は言うに及ばす、使う水自体も「しまつ」し、粗末に扱ってはいけないのです。確かに、蛇口をひねれば水は出てきますし、そして排水口から流れていきます。しかし、蛇口の前には河川があり、その上流には山や森林があります。一方、排水口の先にも河川があり、その下流には大阪湾があるのです。そして、最後には、雲となり、雨となって、再び山や森林に降り注ぐことにより、水は循環しているのです(図12)。そのような「恵み」を、私たちを含む多くの生き物たちが繰り返し受け取っているのですから、粗末に扱ってはいけないと思いませんか。 ここ数年、大阪湾では「スナメリ」が話題となっています。スナメリは、豊かな海のシンボルとなっている沿岸性のイルカの一種です。これまで、大阪湾では目撃されることが少なかったのですが、平成17年に府立水産試験場と専門学校生等が協力して調査を行ったところ、主に湾中南部海域で生息していることが確認されました。平成18年には10頭以上の群れが発見されるなど、その注目度が高まっています。このことは、大阪湾をきれいに、そして豊かにしようとしている人たちを元気づけました。しかし、その分布域は、まだ湾中南部に限られており、もっと大阪湾のいろんな場所でスナメリが棲めるような海にしなければなりません。そのためには、大阪湾に関わる全ての人たちが、水の循環をイメージし、水に関して「しまつ」するように心掛け、そしてその力を大阪の食文化のように「合わせ」ることが必要です。そうすることにより、近い将来、「魚庭」と呼ばれるような、きれいで豊かな大阪湾の復活は、夢ではなくなっているはずです。 |
![]() 図12 水の循環のイメージ ![]() ![]() 写真14 スナメリ(上)と大阪湾で撮影されたスナメリの頭部(下)
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【出典】
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大阪湾における様々な取組み





























