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平成18年版大阪府環境白書 「序章 大阪エコライフ(魚庭(なにわ)の 水 編)」

‐はじめに‐ 豊かな大阪湾

『なにわ』

 ‐ 【難波・浪速・浪花】

 (一説には「魚庭」の意という)大阪市及びその付近の古称

                  (広辞苑より)


遠い昔、大阪都心部の大部分は海の底でした。大阪城や難波宮跡がある上町台地の丘陵部分が南からつづく半島のように海面から顔を出すのみで、東側は深い入江になっており、その湾口部では潮の干満の差が激しく、琵琶湖と大和から流れてくる二つの大河の勢いもあり、潮流は極めて速かったといわれています。そこで、「浪(なみ)が速い」ことから「波速(なみはや)」と呼ばれ、後に訛って「難波(なにわ)」になったと考えられており、実際に「日本書紀」の神武天皇の東征の章にも、「ちょうど難波(なにわ)の碕(みさき)まで来ると、甚だしく速い潮流に出合った。そこで名付けて、ここを浪速国(なみはやのくに)という。(中略)今、難波というのはそれが訛(なま)ったものである。」*1と記されています。

一方、その上町台地の西側に広がる大阪湾が魚介類の豊富な海であったこから、「魚(な)の庭」が転じて「魚庭(なにわ)」になったという説も有力な語源であるといわれています。確かに大阪湾は、その豊かさから大阪だけではなく関西一円の食を中心とした文化を支え、そして歴史をつくってきました。

例えば、蛸(たこ)。大阪で蛸とくれば「たこ焼き」というイメージが一般的ですが、大阪の蛸はそれだけではありません。和泉市から泉大津市にかけて発見された池上曽根遺跡をはじめとする大阪湾沿岸の遺跡からは、タコ壺が数多く見つかっており、大阪湾では約二千年前の弥生時代から漁の対象だったことが知られています。タコ壺漁で獲れた蛸は様々な場面で食されており、大阪の南部、泉南地方では赤ん坊が食べ物に一生困らないように願う「お食い初め」の儀式に蛸の足を吸わせるという習わしがありますし、大阪から奈良や滋賀にかけての農村では、田植えが一段落した半夏生(はんげしょう。夏至から11日目。新暦では7月2日頃)にあわせ、稲の根が蛸の足のようにしっかりと張ることを祈って蛸を食べる習慣が昔から永く続いていました*2。

「麦藁蛸(むぎわらだこ)に祭鱧(まつりはも)」とは、蛸は麦藁のできる頃が、鱧は夏祭りの頃が一番おいしいという、その食材としての旬を表したことばです。

大阪の夏祭の皮切りである「愛染祭」(6月30日〜7月2日)、先の神武天皇の東征の際に祀(まつ)られたとのいわれがある生國魂神社の「いくたま夏祭り」(7月11日〜12日)、夏の夜空に大輪の華を咲かせる花火や大川に多くの船が行き交う船渡御で有名な「天神祭」(7月24日〜25日)、94にものぼる府内の夏祭を締めくくる住吉大社の「夏越し祓い」(7月30日)と続く間、大阪の料理店では「鱧」が欠かせない食材となっています。


             大阪の 祭りつぎつぎ ハモの味
                         (青木月斗)

という句も、そのことを如実に伝えています。また、「天神祭」とともに日本三大祭の一つである「祇園祭」(7月1日〜7月30日)は別名「鱧祭」とも呼ばれ、この時期の京都でも多くの「鱧」が食されています。まさに、関西の夏の代表的な食材の一つとなっていますが、これらの鱧は昔から大阪湾を中心に水揚げされ、京都へも大阪の雑魚場(生魚市場)から「京送り」として船で運んでおり、大阪湾の豊かさが関西の夏祭りを彩っていたことを物語っています。

そして、夏祭りが一段落し、稲穂が頭(こうべ)を垂れる頃になると、泉州一帯では、きれいな彫り物で見事なまでに飾られた「だんじり」が勇壮に疾走します。その中でも特に有名な「岸和田だんじり祭」は別名「かに祭」と呼ばれています。これは、ワタリガニが大阪湾で多く獲れる時期が、祭りが開催される9月中旬頃とちょうど重なるため、祭りにあわせて、ゆであがったばかりの鮮やかな赤色をしたワタリガニを、ごちそうとして多くの人が食していたことに由来しています。

その他にも、現在では様々な食材でつくられる佃 煮は、大阪市西淀川区辺りにあった佃村の漁民が大阪湾で獲れる小魚を塩水で煮込んで作ったものがそ もそもの始まりと言われています*3。食材以外でも、 松原市近辺で盛んであった模造真珠の製造には太刀 魚の銀白色の体表のグアニンを利用していました。 また、泉州地域の特産だった綿花の栽培には大阪湾で獲れたいわしを肥料として使用していた時期もありました。

このように、様々な食材などを提供してくれた豊かな大阪湾は、大阪そして関西の食を中心とした文化を支えてきたのです。

では、現在の大阪湾はどうでしょうか。天神祭やだんじり祭は今も盛大に行われていますが、大阪湾が「魚庭(なにわ)」と名付けられるほど豊かであることを感じている人はどれほどいるのでしょうか。みなさんは今の大阪湾をどのように感じているのでしょうか。



写真1 天神祭


図1約6000年前の大阪


写真2 鱧と鱧の湯引き(落とし)


写真3 岸和田だんじり祭


写真4 ワタリガニとワタリガの塩ゆで


1 大阪湾は汚れている?


図2 大阪湾のイメージ
1) 府政モニターアンケート(H16.9)
2) 回答者399名、2つまで選択可能

実際に大阪湾のイメージについてアンケートを行った結果を図2に掲載していますが、ご覧のとおり、「生き物が多く生息している」とのイメージをお持ちの方が9%しかおられません。また、約82%の方が「海の水が汚れている」、約61%の方が「ゴミが多い」と回答されていることからも、大阪湾が豊かであることをイメージされている方が少ないのは言うに及ばず、その「汚さ」をイメージされている方が圧倒的に多いことが分かります。「魚庭」と呼ばれるほど、豊かな大阪湾は遠い昔のことで、水が汚れ、多くのゴミが浮遊している大阪湾となってしまったのでしょうか。実際にはどうなのでしょうか。


■大阪湾のすがた

まず、大阪湾の大きさや集水域の面積、流れ込む水量などのあらましについてみてみましょう。大阪湾とは、兵庫県明石市と淡路島北端の間の明石海峡より東側、和歌山県和歌山市と兵庫県洲本市の間の紀淡(きたん)海峡より北側の水域を指し、その水面面積は約1,450km2で*4、大阪府の面積のおよそ4分の3、琵琶湖の水面面積のおよそ2倍となっています。

また、大阪湾には、三重県や滋賀県から大阪府ま での広い範囲を流れる河川の水が流れ込んでおり、それらの集水域面積は約10,140km2*4と大阪湾の約7 倍となっています。さらに、それらの流域に居住している人口は約1,700万人にも上り、日本の総人口の 約13%を占めています。そのため、大阪湾にはそれらの河川を通して年間約140億トンもの水が流れ込 んでおり、これは、大阪湾の水量の約3分の1にも相当するものです。


■大阪湾の水質

次に、約82%の方がイメージした「海の水が汚れている」かどうかについて検証してみましょう。海水の汚濁の指標は、海水中の有機物の量を目安としており、CODが使われています。そのCODの大阪湾における分布を示したものが図4ですが、この図から分かるように、湾の奥に進むほど高く、湾奥から離れていくに従って低くなっています。水産生物の生息には3mg/L以下であることが望ましいとされていることから、湾南部や西部は生物にとって棲みやすい、比較的きれいな水質なのですが、湾奥部は生物が棲みにくい環境にあるといえます。

このような現象が起こる原因の一つに、大阪湾に 流れ込む大河川の影響があります。大阪湾に流れ込 む河川は図5のようにたくさんありますが、CODを 高める有機物を大量に運んできているのは、流域面積が広く、水量の多い淀川、大和川及び神崎川といった3つの河川となっています。これら3つの河川から、全流入有機物量の約92%が大阪湾に流れ込んでいます。


図3 大阪湾に流入する河川

(参考)COD 化学的酸素要求量 Chemical Oxygen Demandの略で、海水等の汚れの度合いを示す指標である。水中の有機物などの汚濁の源となる物質を、過マンガン酸カリウム等の酸化剤で酸化するときに消費される酸素量をmg/Lで表したものであり、数値が大きいほど水中の汚濁物質の量も多いということを示している。


図4 大阪湾のCOD(mg/L)の分布

また、河川水中には窒素やリンといった栄養分が含まれており、海域の生産者として大切なプランクトンを育んでいます。しかし、大阪湾では、先に述べた3つの河川の影響もあり、湾奥部を中心にそれらの栄養分が過剰となる「富栄養」な状態となってしまっており、そのため、海中を浮遊する微細な藻類などのプランクトンが異常に発生する「赤潮」を誘発しています。そして、プランクトンの異常発生により表層の有機物の量も増えすぎてしまい、CODの値がさらに高くなるという現象も起きています。(図6)。



図6 大阪湾の主な汚濁メカニズム(イメージ)

(参考)赤潮
 プランクトンの異常繁殖により海水が着色する現象。有害プランクトンや一時的に酸素消費量が増大することによる酸素欠乏のため、魚介類のへい死などを伴うこともある。

さらに、夏期を中心とした高水温時には、軽くなった海水が表層に漂い、海底の冷たくて重い海水と混ざりにくい状況になっています。そのため、富栄養化した海では、海底付近に沈んだ有機物がバクテリア等に活発に分解され、その際に多量の酸素が消費されるため、底層の酸素濃度が非常に低くなる「貧酸素化」が引き起こされています(図7)

■大阪湾のゴミ

先のアンケートでは、約61%の方が大阪湾のイメージを「ゴミが多い」と回答されていました。

大阪湾で見られるゴミは、レジ袋やペットボトルといった私たちの生活から出るものが大半ですが、中にはゴルフボールや野球のバットのようなものか ら、注射針等の危険なものまで、様々なゴミが大阪湾に流れ着いています。これらのゴミは海面を浮遊 した後、海岸に漂着したり、海底に堆積し、船舶や漁業の妨げになるとともに、生物にも悪影響を及ぼ しており、大阪湾に流れ込むそれらのゴミの量は年間約15,000m3(4トントラック2,000台分)にもな ると推計されています*5。

■大阪湾の漁業

古くは「ちぬの海」とも言われていた大阪湾では、日本の海域別に見ても最も多い228種類もの漁業生物の生息が確認されています。そのためか、大消費地近郊であるという利点もあわさり、漁業は活発に営まれてきました。沿岸部の砂泥域のカレイ類、エビ類、カニ類、岩礁域のクロダイ(ちぬ)、カサゴ、マダコ、河口域のスズキ、ボラ、表層付近のイワシ類などが、底びき網や刺網、船びき網、まき網などの多種多様な漁法により漁獲されてきており、昭和57年にはマイワシの豊漁により、単位面積当たりの漁業生産量が全国1位になるほどの豊かさを誇っていました。

しかし、現在の大阪府の漁獲量は年間15,000〜20,000トンの間で推移しており、最盛期の約50%となっています。特に底びき網の漁獲量は、ピークであった昭和39年の約10%にまで落ち込んでいます。

このような漁業資源の減少の理由の一つとして、魚介類の産卵・育成にとって大切な場となる藻場等の浅場や干潟、自然海浜の消失が考えられています。

これまで見てきたように、湾南西部の水質は比較的よいものの、残念ながら、富栄養化やゴミの問題など、現在の大阪湾にはアンケート結果(図2)にあるようなイメージがあてはまるのも事実です。特に湾奥部では「魚庭」と呼ばれた頃のような、生き物にとって快適な海であるとは言い難い状態です。



図7 海底付近の貧酸素化の発生事例(平成16年度)


写真5 底びき網にかかったレジ袋などの海底ゴミ


写真6 貴重な自然干潟の一つである男里川河口
干潟とそこに棲むハクセンシオマネキ

2 私たちも大阪湾を汚している!

大阪湾が、このような状態になってしまったのはどうしてでしょうか。レジ袋やペットボトルのポイ捨てなどは論外ですが、実は、私たちの暮らしの中で当たり前にしていることが、大阪湾を汚してしまっているのです。ここでは、私たちの生活が大阪湾に与える影響について、海から河川へ、河川から家庭へ、遡りながら考えてみましょう。

大阪湾へ有機物を大量に運んでいるのは、水量の多い淀川、大和川及び神崎川の3つの河川であることは事実です。しかし、泉州地域を数多く流れている河川(以下、「泉州諸河川」という。)も大阪湾の水質にとっては、無視できない存在となっています。表1は平成16年度末における府内の市町村別の生活排水処理率を示していますが、泉州地域の市町村では総じて低くなっていることが分かります。つまり、泉州諸河川には未処理の生活排水が比較的多く流れ込んでおり、水量は多くないものの、その汚濁の濃度は非常に高くなっています。その結果、表2にあるように、河川の汚濁の指標であるBODの値については、淀川、大和川及び神崎川の主要な河川の約1.6〜8.3倍にもなっています。

次に河川の汚濁の原因についてみてみましょう。図8は河川の汚濁の原因の割合を円グラフで示したものですが、下水処理場や浄化槽によって処理されている排水も含め、生活排水が80%を占めていることがわかります。つまり、私たちの家庭からの排水こそが、たとえ下水処理場や浄化槽を経由していても、河川を汚し、そして大阪湾を汚している主要な原因 であることが分かります。

それでは、私たちの家庭のどのような行為が、どれほど河川や大阪湾を汚しているのでしょうか。図9は、私たち1人が1日のうちに家庭で流す汚水の割合を示したものですが、これによると、台所からの汚水の影響が40%と最も大きいことが分かります。

私たちが、普段の生活の中で、当たり前のこととして食器を洗ったり、洗濯していることが、河川の汚濁につながり、そして、大阪湾を汚してしまっていることが分かっていただけたでしょうか。






(参考)BOD 生物化学的酸素要求量 Biochemical Oxygen Demandの略。河川水等の汚れの度合いを示す指標で、水中の有機物が微生物によって分解されるときに消費される酸素量から求める。単位は一般的にmg/Lで表し、数値が大きいほど水中の汚濁物質の量も多いということを示している。


図8 河川の汚濁の原因(平成16年度推計速報値)

3 私たちができること

大阪湾を汚している私たちですが、最も影響の大きい台所を中心にちょっとした工夫を凝らせば、河川を、そして大阪湾を大いに助けることができます。まずは、洗剤を余分に使用しないように心掛けることが大切です。洗剤は食器の汚れをきれいにするために必要ですが、実は洗剤自体も水を汚しているのです。最近の技術開発により、環境への影響が小さい洗剤も販売されていますが、必要以上の洗剤を使えば、排水はそれだけ汚れることになります。「使用上の注意をよく読み、用量を守って使うこと」は、河川や大阪湾のためにも必要なことなんです。無論、石けん、シャンプー、洗濯用洗剤などでも同じです。

簡単な工夫では、水切りネットも効果的です。排水口のつまり対策として既に実践されている方も多いと思いますが、流し台の三角コーナーや排水口にセットすれば、調理かすや食べかすなどのゴミをしっかりキャッチします。使用済みのストッキングなどを利用するのもいいでしょう。

ちょっと面倒かもしれませんが、ゴムベラも有効です。カレーやシチューがついたままの食器などは、そのまま無意識に洗ってしまいがちですが、洗う前にゴムベラでそれらを根こそぎとってしまえば、排水中の汚れを少なくすることができます。さらには、洗剤や水を節約することもできます。油汚れの場合には古新聞を利用して拭き取るのも効果的です。

少しかわったところでは、洗剤をあまり使わずに、食器の汚れを落とすことができる特殊なスポンジ(メラニン樹脂スポンジ)があります。食器にこびりついてしまった、しつこい汚れには最適です。また、流し台やグリル周り、お風呂などの生活の汚れ全般に幅広く使えるようです。

このように、洗剤を適正に使用することを心掛け、台所グッズを上手に使えば、大阪湾を汚さずに、お財布にもやさしい暮らしができるのではないでしょうか。


図9 生活排水の分類とその汚濁の割合


写真7 ゴムベラの使用前後(カレー鍋)


4 もっときれいに! もっと豊かに!

私たちが、家庭で大阪湾を助けようとするように、いろんな人たちが、いろんなところで、水をきれいに、そして大阪湾を豊かにしようと努力しています。ここでは、そんな活動について紹介します。

■アマモの育成

海の植物は海中の過剰な栄養分を吸収し、水質を改善するのに役立つだけでなく、魚介類の産卵・育成にとって重要な場でもあります。

きれいで穏やかな海に生育するアマモは、産卵場や稚魚が育つ場となることから「海のゆりかご」ともいわれています。かつては、大阪湾に広く分布していたのですが、現在ではあまり見られなくなってしまいました。そこで、大阪湾南部の海岸では、アマモの生息域を拡大するため、NPOやボランティアダイバーが中心となって、海底調査を実施したり、アマモの種子を入れた育成キットを作成し、みんなで苗を育て、それを大阪湾に移植していくような取り組みも始まっています。

   

写真8 大阪湾一斉水質調査(釣り人による調査)
■大阪湾水質一斉調査

大阪湾をきれいにするためには、まずは大阪湾の汚濁の状況を確実に把握することが必要です。そのため、国や自治体により継続した調査がこれまでも実施されてきました。しかし、大阪湾の汚濁の全体像を、より的確に把握するためには、同じ時間帯に、できるだけ多くの地点で一斉に調査しなければなりません。ただ、国や自治体だけでは限界があるため、平成16年からは、国や自治体に加え、研究機関や企業等も参加して、琵琶湖から大阪湾までの一斉水質調査を実施しています。平成18年からは、自治体や企業等が478地点で調査する一方、普段から大阪湾と触れ合っている釣り人やNPOも新たに参加し、さらに詳しい水質データを得ることができるようになりました。


図10 大阪湾水質一斉調査地点(平成18年度国・自治体・企業・研究機関分)

■コンブによる水環境改善

大阪の食の文化は「合わせる文化」とも言われています。その代表格である「合わせだし」の一翼を担う「コンブ」は昔から大阪に馴染みの深い食材でした。「塩昆布」や「酢昆布」の発祥の地であること からもそのことはうかがい知れます*3。

大阪湾北中部の堺市浜寺水路や岸和田港では、そ のコンブを人工海岸の垂直護岸に設置する実験が行われています。コンブが育つ際に、大阪湾で過剰と なっている窒素やリンといった栄養分を吸収してくれることから、水質浄化や生物環境の改善につなが ることが期待されています。この実験は地域の人たちや漁業者、NPOの協力のもと、小学生たちが中心 となって取り組んでおり、大阪湾の環境を実体験を通して学習しています。

■大阪湾クリーン作戦

先にも述べましたが、大阪湾の海底や海岸には沢 山のゴミが見られ、その多くは私たちの生活から出てくるビニールや発泡スチロール、金属類などです。 これらは放置していても、分解したり、生物の栄養になることはなく、むしろ生物のすみかを乱し、生 態系を脅かす可能性もあるものです。このようなゴミを回収しつつ、ゴミを捨てないように呼びかけるような市民参加型の大規模清掃活動が毎年行われています。

「大阪湾クリーン作戦」では、環境月間である6月に、大阪湾全域で、船やダイバーによる浮遊・海底ゴミの回収を、浜辺や流入河川では一般の方も参加した清掃活動を実施しており、平成18年には、約770トンものゴミを回収しました。





図11 平成18年の大阪湾クリーン作戦で
回収されたゴミの種類別割合

写真9 ボランティアダイバーによるアマモ場の再生


写真10 アマモと育成キット


写真11 小学生たちによるコンブ育成実験


写真12 ダイバーによる海底ゴミの回収
■魚庭の森づくり

大阪湾に水を供給しているのが河川ならば、その河川に多くの水を供給しているのが森林です。森林に降り注いだ雨は、谷に集まりながら河川や地下水となって流れていき、一部を私たちが飲料や水田などに利用し、河川を通って大阪湾へ流れていきます。間伐や枝打ちなどの整備が行き届いた森林は、光が射し込むため、木々は大きく育ち、適度に下草が生えて、土砂の流出を抑えることができます。また、そういった森林には様々な動植物が共生し、豊かな生態系が構築されています。さらに、落ち葉は腐葉土となって豊かな土壌をつくり、水に適度な栄養分を与え、河川や大阪湾に棲む生物たちの恵みとなっています。また、そのような土壌は雨水を十分に蓄えます。土砂の流出を抑え、雨水を蓄える、そんな「緑のダム」といわれる機能がうまく働き、日照りが続いても水が枯れず、河川の安定した流れを維持することができるのです。そう、森・川・海はつながっており、ひとつのものなのです。

しかし、現在、多くの森林は間伐や枝打ちなどを行う担い手が少なくなり、放置されることにより竹林が拡大するなど、荒廃が進んでしまっています。そのため、手入れがなされない森林は、地表の動植物から光を奪い、下草もなくなり、地面が剥き出しになるなど、豊かな生態系がこわれてしまうのはもちろんのこと、土砂の流出を防ぐことができなくなり、さらには雨水を蓄えることもできなくなってしまいます。その結果、大雨時の土砂災害や下流域での洪水などを引き起こすような危険な状態さえ生み出していますし、流出した土砂は遠く大阪湾まで運ばれ、魚介類にとって大切なすみかである藻場などを脅かしてしまうのです。そうです、森がだめになれば、海までだめになってしまうのです。

そこで、森を守るために立ち上がったのが、海で仕事をしている漁師さんたちでした。「海を良くするためにも森を守らなければならないんだ」。そのことを、一番強く感じているのが漁師の方々だったのです。大阪の漁師の方々は大阪湾の環境を改善するため、「漁師は海の護(まも)り人」を合い言葉に、堺市、岸和田市、貝塚市、泉南市において「魚庭の森づくり」活動に取り組んでいます。

ここに紹介した活動以外にも、様々な活動が始まっています。大阪湾をもっときれいに、そしてもっと豊かにするためには、家庭での工夫のような小さなことであっても、継続して取り組んでいかなければなりません。




写真13 魚庭の森づくり

−おわりに− 魚庭の海の復活

大阪の夏祭を彩る鱧(はも)は、「魚」に「豊」と書きますが、そのいわれは調理法が豊かであるからだといわれています。大阪では、その豊かな調理法により、身はもちろんのこと、皮までを食しており、道頓堀を舞台にした小説「鱧の皮」(上司小剣)の中にも、「鱧の皮、細う切って、二杯酢にして一晩ぐらゐ漬けておくと、温飯に載せて一寸いけるさかいな」とでてくるほどです。鰻(うなぎ)だって、大阪ではきれいに丸ごと食していました。香ばしい「骨せんべい」は鰻の骨を揚げたものですし、「半助」と呼ばれる鰻の頭は、焼いてから豆腐や野菜と一緒に煮ていました。まさに、ものを粗末に扱うことを嫌う、大阪人の「しまつの心」の現われといえるのではないでしょうか。

水に関しても、粗末にするのではなく、「しまつ」することが必要です。洗剤は言うに及ばす、使う水自体も「しまつ」し、粗末に扱ってはいけないのです。確かに、蛇口をひねれば水は出てきますし、そして排水口から流れていきます。しかし、蛇口の前には河川があり、その上流には山や森林があります。一方、排水口の先にも河川があり、その下流には大阪湾があるのです。そして、最後には、雲となり、雨となって、再び山や森林に降り注ぐことにより、水は循環しているのです(図12)。そのような「恵み」を、私たちを含む多くの生き物たちが繰り返し受け取っているのですから、粗末に扱ってはいけないと思いませんか。

ここ数年、大阪湾では「スナメリ」が話題となっています。スナメリは、豊かな海のシンボルとなっている沿岸性のイルカの一種です。これまで、大阪湾では目撃されることが少なかったのですが、平成17年に府立水産試験場と専門学校生等が協力して調査を行ったところ、主に湾中南部海域で生息していることが確認されました。平成18年には10頭以上の群れが発見されるなど、その注目度が高まっています。このことは、大阪湾をきれいに、そして豊かにしようとしている人たちを元気づけました。しかし、その分布域は、まだ湾中南部に限られており、もっと大阪湾のいろんな場所でスナメリが棲めるような海にしなければなりません。そのためには、大阪湾に関わる全ての人たちが、水の循環をイメージし、水に関して「しまつ」するように心掛け、そしてその力を大阪の食文化のように「合わせ」ることが必要です。そうすることにより、近い将来、「魚庭」と呼ばれるような、きれいで豊かな大阪湾の復活は、夢ではなくなっているはずです。


図12 水の循環のイメージ



写真14 スナメリ(上)と大阪湾で撮影されたスナメリの頭部(下)

(参考)スナメリ
 クジラ目ハクジラ亜目ネズミイルカ科スナメリ属に属する小型のイルカ。全身が明るい灰色で、体長は1.2〜1.9m、体重は40〜60kg。寿命はおよそ30年。アマモの多い砂地を好むことから、名付けられたとも言われている。

【出典】
  1. 渡邊靜男,新編日本古典文学全集2 日本書記!,小学館
  2. NPO法人浪速魚菜の会事務局,季刊大阪「食」文化専門誌浮瀬第9号(2005)
  3. 大阪商工会議所,大阪食彩ブランド事業WG報告書(2006)
  4. 大阪湾再生推進会議,大阪湾再生行動計画(2004)
  5. 国土交通省近畿地方整備局推計値
  6. 大阪ブランドコミッティ,大阪の四季を彩る祭礼〜伝統的な祭りと新しい祭りで賑わう大阪〜
  7. 大阪風味くいだおれ大阪どっとこむ!ホームページ(「食歳時記」門上武司、「旬の食材」酒井亮介)
  8. なにわ物語研究会,大阪まち物語,創元社
  9. 大阪府,大阪府豊かな海づくりプラン〜森・川・海の環境再生による魚庭の海づくり〜(2005,5)
【図】
  1. 大阪ブランドコミッティ,世界に誇る水都・大阪〜水が育て、水とともに生きる街・大阪〜
  2. 日本河川協会「流量年表 平成12年」(2002)
  3. 中央環境審議会水環境部会総量規制専門委員会(第2回)(2004)
  4. 大阪府公害監視センター「大阪府下河川等水質調査結果報告書」(平成10〜12年度)及び兵庫県県民生活部環境局「公共用水域の水質等測定結果報告書」(平成10〜12年度)
  5. 大阪府立水産試験場調査資料
  6. 環境省,生活排水読本「生活排水の分類と1日1人当たりの負荷割合」を基に大阪府で作成
  7. 国土交通省近畿地方整備局
  8. 第五管区海上保安本部ホームページ「平成18年度の大阪湾クリーン作戦実施状況」
【写真提供】
  1. 3.大阪ブランドコミッティ, 大阪の四季を彩る祭礼〜伝統的な祭りと新しい祭りで賑わう大阪〜
  2. 左,4左,6 大阪府立水産試験場
  3. 右「こんなの食べたよ」ホームページ
  4. 右大阪ヘルスメイトの会(大阪府食生活改善連絡協議会、大阪市食生活改善推進員協議会), 日本の味 なにわの味
  5. 特定非営利活動法人釣り文化協会
  6. 特定非営利活動法人環境教育技術振興会
  7. 上長崎県自然保護課
  8. 下速形映像 速形豪氏

大阪湾における様々な取組み

大阪湾における様々な取組み(解説編)

  1. 大阪湾クリーン作戦(大阪湾一円)
      大阪湾の海底や海岸にはたくさんのゴミが見られます。それらの大半は私たちの生活から出るもので、ビニールやプラスチックなど、自然に還らないものも多く含まれています。そこで、毎年6月の環境月間に、国や自治体、漁業協同組合連合会等各種団体が連携して、「大阪湾クリーン作戦」を実施しています。昭和59年から始まったこの事業は、河川、海岸、海域へのごみ投棄の防止をPRするとともに、大阪湾内のごみの回収や海浜清掃を行い、大阪湾の環境保全に努めています。


  2. 共生の森(堺泉北港堺7−3区)
     堺第7−3区産業廃棄物埋立処分場(280ha)のうち約100haの区域を対象に臨海部に自然環境を取り戻すため、森として整備することが「都市再生プロジェクト(第3次決定)」において位置づけられました。森づくりは自然の力を活かしながら府民、NPO、企業、行政など様々な主体との協働により取り組むこととし、平成16年度からワークショップを開催し、また平成18年度には「企業による森づくり連絡調整会」を立ち上げ、様々な主体の協働による森づくりを進めています。


  3. 人工干潟設置の取組み(堺泉北港堺2区、阪南2区、堺市浜寺水路)
      干潟(ひがた)とは、潮の満ち引きにより露出したり水没したりを繰り返す平坦な場所のことです。干潟では、栄養塩やプランクトンを食べるゴカイ、エビ、カニ、貝、魚などが生まれ育ち、また、これらを餌にする魚や鳥たちも集まってきます。干潟は、多くの生命を生み育てる「海のゆりかご」とも言われます。  また、このような生物の営みによって水質が良くなるという効果や、海が身近になるというメリットもあります。
     大阪湾にも昔は多くの干潟がありましたが、埋め立てや直立護岸等によってほとんど無くなってしまいました。そこで、人工的に干潟を復活させようという試みが各地で行われています。堺泉北港堺2区は、海水と淡水が混じり合う大和川河口に位置し、かつては豊かな生態系が広がっていました。阪南2区のような埋め立て地は、造成される中で干潟を奪ってきたものですが、その護岸を工夫することで人工の干潟を作っています。また、浜寺水路の観察護岸では、地元小学生に自分の手で小さな干潟を作ってもらい、干潟の役割を体験してもらう取り組みも実施しています。


  4. スナメリ調査(大阪湾中南部海域)
      スナメリは沿岸性のイルカの一種で、汚れた海では生息できないと言われており、きれいな海のシンボルとなっています。大阪湾では、NPOや専門学校生と連携しながら、生息する場所や頭数の定期的なモニタリングや、今まで実施されていなかった生育調査が実施されています。


  5. アマモ場育成実験(泉南サザンビーチ、せんなん里海公園等)
      アマモはきれいで穏やかな海に生育する海草で、産卵や稚魚の成育場となることから、干潟と同様「海のゆりかご」と呼ばれています。かつては大阪湾に広く分布していたアマモも、近年あまり見られなくなってしまいました。そこで、誰もが取り組めるようなアマモ育成キットを作成して配布し、育った苗をボランティアダイバーの方々の手で海底に移植するといった取組みなどが行われています。


  6. 市民(釣り人等)による環境モニタリング(大阪湾一円)
      釣り人等の市民が身近な海辺で継続的にモニタリング調査を実施し、ホームページや環境データベース等に情報を発信するNPOの取組みです。平成18年度からは、国や自治体を中心に、企業や研究機関と協力して実施している「大阪湾水質一斉調査」にも参画していただき、さらに詳しい水質データや様々な情報が得られるようになりました。


  7. 藻場造成の取り組み(関西国際空港2期事業)
      関西空港島では、一期空港島の護岸11.2kmのうち約80%で藻場造成を行ったことにより、現在では多種多様な海藻や魚介類が生育しており、新たな生育場、餌料場となっています。現在建設中の二期空港島においても、そのノウハウを活用して藻場造成を行っています。また、空港島の海藻の種苗を小学生やNPOに配布し、地元の海でも藻場を広げてもらえるような取組みを行っています。


  8. 魚庭の海づくり大会(岸和田市など)
      若手漁業者が中心となって、大阪湾の環境や地元魚介類の魅力などについて広く知ってもらうための多彩なイベントを開催し、美しく豊かな大阪湾を府民一人ひとりの手で取り戻す活動への参加を呼び掛けています。大会では、漁業者が大阪湾の環境改善の取組みの先頭に立つ決意を示す「豊かな海づくり宣言」も行われます。


  9. コンブ等による水環境改善実験(堺市浜寺水路、岸和田港など)
      海藻には、大阪湾で過剰に存在する窒素やりんと言った栄養分を吸収する性質があります。そこで、堺市浜寺水路や岸和田港等の人工海岸(直立護岸)でコンブを育てる実験が行われています。この実験には、漁業者やNPOの方々の協力を頂き、地元住民や小学生たちが参加しています。コンブの浄化力や大阪湾の環境を実体験を通して学習することで、大阪湾を身近に感じてもらえるような取り組みになっています。
【写真の出典】@第五管区海上保安本部 / B−上・下、F大阪湾再生推進会議 / C−大「大阪湾見守りネット」武田知美さん / ENPO法人「釣り文化協会」 / 大阪湾の魚たち 大阪府立水産試験場
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