在阪大学環境関連研究室紹介 大阪府環境農林水産総合研究所
研究室訪問インタビュー        

大阪府立大学  安保 正一 教授

   大学院工学研究科 物質・化学系専攻
           応用化学分野 物理化学研究グループ


無限の可能性を秘めた光触媒の科学と技術
〜クリーンな太陽光エネルギーの有効利用の切り札〜

安保正一教授
キーワード
光触媒 固体触媒 太陽光エネルギー 酸化チタン
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 □研究室ホームページ(大阪府立大学)
 安保先生は、長年にわたって「光触媒反応」の研究に取り組んでこられました。その中で、環境分野における「光触媒」の応用として、有害物質で汚染された大気や水の無害化・清浄化の研究、脱臭、抗菌、防汚などの室内住環境の清浄化に関する研究をはじめ、太陽光と高機能な可視光応答型の新規な酸化チタン光触媒を利用して水を分解しクリーンな水素と酸素を分離して製造する太陽光化学プロセスの構築に関する研究を進められており、究極のクリーンエネルギーとしての水素の環境に優しい環境調和的な製造法として期待されています。現在、高機能光触媒に関する研究会の会長として、光触媒の啓蒙活動や企業の相談に応じたり共同研究されたりするなど、精力的に研究活動をされています。
■「光触媒」の研究を始められたきっかけは何でしょうか。
 光触媒の研究を始めたのは20年以上前になります。学生の頃から光化学に興味があり、まだ誰も手を付けていなかった固体触媒に吸着した分子の光化学を研究していました。当時は、大気汚染が問題になってきた時期で、大気中に浮遊している塵埃の表面にNOXやSOXが吸着して、そこで光化学反応が起こっているのではないかと言われていました。大学に残ることが決まって、今度は、吸着される側の固体触媒に光を当てて励起した時にどのような表面反応が起こるかという研究を始めました。まさにそれが光触媒反応の一端であって、現在の光触媒に関する研究に進展してきました。無尽蔵のクリーンな太陽光を利用する人工光合成の研究といえるものでサイエンスとして非常に魅力を感じております。

■現在の研究の内容はどのようなものでしょうか。
実験室 高効率な光触媒の実用化を推進するため、各種の分子分光法を駆使して原子・分子レベルで制御した光触媒の調製と光触媒反応の機構解明を中心に研究を行っています。触媒を調製しその反応性を調べ、触媒の構造と反応性の関連性を解明し、そのデーターをフィードバックし、さらに効率の高い優れた機能の触媒と光触媒を開発するという戦略で研究を進めています。
 その中でも、特に注目している第一点目は、如何にして高い反応性を有する触媒・光触媒を創製するかということです。例えば、酸化チタンの粒子サイズを小さくすると光触媒としての反応性が上がるということを発見し、微粒子効果、サイズ量子化効果、高分散化効果、さらにはシングルサイト(単核化)効果など、光触媒の反応性を向上させる効果を見いだしております。
 第二点目は、可視光や太陽光を有効に吸収して機能する光触媒を創製することです。酸化チタンは380nmよりも短い波長の紫外光でないと機能しないので、無尽蔵な太陽光エネルギーを有効に利用するために400 nmよりも長い波長の可視光で機能する酸化チタンを創製する必要があります。この課題に誰よりも先駆けて取り組みました。1986年頃からNEDOとコスモ石油(株)の支援を受けてイオン注入という日本で発展して最先端の技術を駆使して酸化チタン光触媒の改質に取り組み、元の酸化チタンと比べて、太陽光の照射下で4〜5倍の高い効率の光触媒を創製することに成功し非常に注目を集めました。その研究が契機となり、可視光応答型の光触媒の研究がブームになり今も続いているわけです。当初はイオン注入により可視光応答性の酸化チタン光触媒を製造していたため量産ができず実用化が難しかったのですが、現在では、汎用型のマグネットのスパッタ蒸着法で可視光応答性の酸化チタン光触媒の製造に成功しており、この光触媒を用いた研究を進めているところです。

■太陽光を利用して水素と酸素を作る研究にも取組まれているそうですが。
 太陽光を利用して水を分解し水素と酸素を作るという研究は、1972年に東京大学の本多先生と藤嶋先生が、二酸化チタン単結晶電極と白金電極からなる水の電気分解の系において電場を掛けながらキセノン燈の光を二酸化チタン電極に照射すると水が比較的低い電場で分解して水素と酸素が発生するという酸化チタン電極の光増感作用を見出され、それが契機となり、酸化チタン光触媒に関する研究が盛んに行われるようになりました。その後、酸化チタンなどの微粒子状の触媒に白金等の貴金属を助触媒として少しだけ添加し水に懸濁させて光照射すると、水が分解し水素と酸素が発生する光触媒反応が進行することがわかってきました。しかし、このような粉末光触媒系では、水素と酸素が混合ガスとして発生し、また、生成した水素と酸素が白金の作用で元の水に戻る逆反応が起きるため、反応効率が余り上がらないことがわかってきました。それに比べ、現在我々が開発している可視光応答型の酸化チタン薄膜光触媒を用い、この光触媒素子を2つの水槽の間にセットし窓を通して光照射(太陽光)することで水素と酸素をそれぞれの水槽に分離して発生させることに成功しました。スパッタを少し大型化して容量の大きな薄膜光触媒を作り、太陽光で水から水素と酸素を製造し燃焼電池を動かすことが現在の課題ですが、世界で初めて、可視光応答型酸化チタン薄膜光触媒と太陽光で水から純粋な水素と酸素を分離して製造することに成功するところまできています。

■光触媒研究会を設けるなど、積極的に企業とコンタクトを取られていますが、企業に期待するのはどのようなことですか。
 酸化チタン光触媒による環境浄化(光触媒による完全酸化分解の機能と光誘起超親水化機能)は既に一部実用化が始まっています。高活性な酸化チタン光触媒を利用すると、有害有機物質やにおい成分、ウイルス、バクテリアなどを完全酸化で二酸化炭素と水に分解し無害化しますので、
環境浄化の分野で実用展開の幅が広がっています。脱臭や除菌のような機能だけでなく、酸化チタン薄膜の場合には光が当たると表面の水滴が広がる超親水という現象が誘起されることで、表面が曇らなかったり汚れが水で容易に流れ落されるため、この光誘起超親水特性の機能を利用したタイルやミラーのセルフクリーニングによる防汚や防曇の用途が広がっています。さらに光触媒の可能性を押し広げる企業さんのおもしろいアイデアに期待しています。
 話は少し変わりますが、小型燃料電池に関しても光触媒に興味深い技術があります。水素中に不純物として存在する一酸化炭素の除去は燃料電池の分野で大きな課題になっていますが、シリカゲル表面に酸化モリブデンや酸化クロムを高分散担持させた触媒系に光(太陽光)を当てることで、一酸化炭素のみが選択的に反応し二酸化炭素として除かれ、純粋の水素を得ることができます。企業さんの力でこの様な光触媒もなんとか実用化できないかと思っています。

■企業のみなさんの協力で光触媒の環境浄化などへの利用が一層広がるよう期待しております。最後に先生の次の研究目標をお聞かせ下さい。
 私の次の研究目標は、可視光応答型の酸化チタン薄膜を用いて折り曲げの可能な薄膜太陽電池を作ることです。開発した可視光応答型酸化チタン薄膜は太陽光を高効率で吸収し、高効率で電子と正孔が生成します。この電子を回すことで太陽電池をつくるのです。実際、可視光応答型の酸化チタン薄膜を太陽光で照射することで電池を形成しオリゴールを鳴らすことに成功しております。
 日本は、埋蔵エネルギーがほとんどないので、世界からの輸入に依存しています。クリーンで無尽蔵な太陽の光を使ってクリーンなエネルギーを生み出せる光触媒(人工光合成)は、環境問題やエネルギー問題を解決してくれる最も可能性のある環境調和型の技術です。今後さらに研究に力を注いでいきたいと思っています。

2007/02/28